蝉しぐれ
藤沢周平の長編時代小説のドラマ化。東北の小藩に生きた下級武士の息子の波乱に満ちた青春模様が、奇をてらうことのない正攻法で描かれている。義父・牧助左衛門(勝野洋)が藩の世継ぎ争いの陰謀に巻きこまれ、ついには切腹させられてしまう。反逆者の子という烙印を押された文四郎(内野聖陽)は、その屈辱に耐えて勤めと剣術に励み、仇である主席家老・里村左内(平幹二郎)への復しゅうを誓う。
社会の理不尽に直面する中で、義を見てせざるは勇無きことかとの決断を迫られる主人公の耐え忍ぶ姿、ひたむきな思いが切々としていていい。文四郎とふく(水野真紀)との宿命的な関係も物語の見どころ。敵方の松明を避けるため、舟底に横になって身を潜める場面の美しさたるや。月明かりに照らされる2人の絡み合う姿には息をのむ。また、闇に真剣の輝きだけが鈍く光る殺陣も迫力満点だ。ただ、ほとんど忍術のような秘剣村雨の再現には、肩透かしを食わされた気分。(麻生結一)
「金賞」受賞作品にふさわしい名作 |
つい先日、東北地方限定でこのドラマをほどよく再編集したものが、3週にわたり総合テレビで放映されました。全編じっくりと見て、なるほどこれは「金賞」(ゴールドニンフ賞・最優秀賞)に値するドラマだと心底思いました。これの映画版の評判はいまいちのようで、私は映画は見ていませんが、何となくキャスティングの印象からしても「ドラマ版は映画の比でなく素晴らしい」とされる訳が分かるような気がします。
このドラマを構成する、珠玉ともいえる幾つかのテーマ・・・心清く誠実に、人を大切にすれば、めぐりめぐって必ず味方がつき助けられるという道理。悪徳家老に少しも諂わず「お黙りあれ!」と一喝し「もうご家老の評定が行われておりますぞ」と最後通牒を突きつける、いかにも藤沢作品らしいと言われる胸のすく痛快さ! そして何といっても、運命に逆らえず結ばれないと知りながらも、はかない蝉の生命に載せて互いに生涯の思いを遂げようとする二人の恋。どれも気持ちよく、力強く、また何と美しく描いているものかと感慨を深くします。内野さんや脇を固める俳優さん方のキャスティングの適格さ・演技力はもちろん、少年少女役も自然でとても良い。特に、お福の子役は「よくこれほど似た子を当ててくれたもの」と感心いたしました。ラストで、前藩主側室と郡奉行の身分を超え、昔のように「ふく」と呼びかけ身を寄せ合うシーンは、正に最後を飾る美と感動の場面です(私個人的には「こういう場面を見せてもらいたかった!」を叶えてくれた、との思い)。
回顧形式に異を唱える方もいますが、所々に現在の場面を入れて心情を明かすことで、ストーリーの流れやそれぞれの回顧場面へ解説効果があり、見る人誰もがよく分かるという作りになる点で、私はこれで良いと考えます。まさしくドラマ史に残る名作ではないでしょうか。
第一級の映像作品 |
2003年夏の本放送以来、再放送が繰り返され、今も「NHK蝉しぐれ掲示板」に3000件を超える投稿が寄せられている作品。 「蝉しぐれ病」「内野病」なる言葉も生まれ、いかにこのテレビ映像を見た人が感動したかの証となっている。 初恋のひとへの深い想い、義父への強い尊敬の念、義母への労わり、境遇が変わっても変節しない友情、この映像で描かれているのは、これら全ての「愛の物語」である。 原作の素晴らしさは無論のこと、脚本、饒舌を廃した演出、主役はもちろん脇役・端役にいたるまで見事なキャスティング、随所に見られるカメラワークと照明の巧みさ。 そして血しぶきを映さなくても「人を斬るとはこういうことだ」と思わせた殺陣の凄まじさ。 まさしく第一級の作品である。 時代劇でありながら、モンテカルロ国際テレビ祭で、最優秀作品賞、最優秀主演男優賞にあたるゴールドニンフ賞を受賞したのも納得できる。
視聴者の熱い投稿に対して、異例とも言えるスタッフと主演二人の「お礼の言葉」が掲載されたが、原作に深い敬意を抱いて映像化に取り組み、視聴者と真摯に向き合うスタッフとキャストが生み出した作品だからこそ、3年経った今も、見る人の心を捉え続けているのではないだろうか。
本放送では放映されなかった2場面を、特典映像として加えたこのテレビ版DVDは、時代劇ファンに対してだけに限らす、お奨めしたい作品である。
文句なくテレビ版に一票 |
大好きな藤沢作品の中で、一番のお気に入りだった「蝉しぐれ」。 映像化に大きな不安を抱いていた。 しかし、テレビ版はその危惧を見事に払拭してくれた。 映画版も同じ脚本家なのだが、テレビ版以上の時間の制約は如何ともし難い。
さらに特筆すべきはテレビ版で文四郎を演じた内野聖陽の演技力。感情を豊かに表す目、台詞の間合い、殺陣の力強さ。「演じた」というより、「生きた」というのが相応しい。彼を文四郎に選んだプロデューサーの慧眼に感服している。
運命を受け入れてなお、人としての誇り、矜持を失わない主人公。藤沢作品に流れる「切なさ」と「人の絆」をこれほど細やかに描き出したテレビ版は完成度の高い名作である。 テレビ版とて、時間的制約のために切り捨てられた残念な部分は確かにある。 しかし、それでも藤沢作品のテイストは、しっかりこの作品の中に息づいていた。 愛読者として、そのことが本当に嬉しい。
テレビ版に一票 |
藤沢先生の素晴らしい原作を映像化するには、最低このテレビ版ぐらいのボリュームは必要。映画版はとにかくはしょり過ぎ。重要な場面が削られていてがっかりした。
俳優陣もテレビ版の方が数段優れている。特に主人公文四郎の親友二人の差は歴然。逸平:テレビ版は石橋保、映画版はふかわりょう。与之助:テレビ版は宮藤官九郎、映画版は今田耕司。
文四郎の父親も、テレビ版の勝野洋の方がよい。映画版の緒形拳はさすがに名優だが、この役には少し年をとり過ぎ。働き盛りに非業の死を遂げる雰囲気ではない。
もちろん、テレビ版主役の内野聖陽、水野真紀も申し分なし。子役から大人の俳優にチェンジするタイミングもテレビ版の方が適切だったと思う。
画像の面でも、テレビ版も16:9だから、ワイドテレビで楽しめる。
時代劇もいいなぁ |
放映されていたときに観なかったことを後悔しました。
原作も好きでしたが、ドラマでは、人物関係が単純化され、善悪もかなり明確になっていました。
特筆すべきは、おふくと文四郎のキャスティングの妙です。
映画化もされていますが、この2人には及びません。(と思いました)
また、原作よりも文四郎が、よりピュアに描かれています。ネタばれですが、おふくを助け出す時点では、独身ですし、女郎買いの場面もありません。
この作品を観て、内野聖陽という俳優の演技の素晴らしさに目覚めました。日本人が持っていたかもしれない(笑)美しさを体現してくれています。特に『逆転』の章は、見応え充分。発声の基本ができていて、何をしなくても、ただそこにいるだけで「間」が活きています。
私はあまり日本の作品を見ないのですが、こんなに奥行きのある演技ができる俳優が日本にもいたんだと感動しました。
ただ、しかーし、とっても惜しまれるのは、何故、回顧録っぽくしちゃったのか?ということ。
時系列通り(原作どおり)の方が、ハラハラ・ドキドキ・ワクワクといった心臓バクバク感が味わえたのに。。。
でもでも、時代考証もばっちりで、殺陣も迫力があります。これは今の時代劇としては珍しいのでは?
もっとDVD用に編集して売り出してほしい!