『空海の風景』を旅する
空海の現代における意味を考える |
司馬遼太郎が1970年代に発表した作品『空海の風景』をあらためてひもとき、映像として取材し記録し直そうとしたものである。2001年9月からNHK番組の企画がスタートしたという。
活字原作をもとにしたドキュメンタリー映像作品は原作をなぞっていけばいいという安易なものではなく、かえって独自取材によるドキュメンタリー番組より厄介とも言える。しかし、今だからこそ司馬遼太郎の視点で捉えようとしたのである。
「空海はながい日本歴史のなかで、国家や民族という些々たる特殊性から脱けだして、人間もしくは人類という普遍的世界に入りえた数すくないひとりであったといえる」(『空海の風景』十三)そういう空海を天才と呼ぶ司馬遼太郎である。
この長編の冒頭は、空海の生誕地、讃岐(香川県)である。想像し難い遠い過去を描くのに、現代(1970年代)から「外光」を当てようとした。讃岐には池が多い。その多くは空海が掘ったという。善通寺境内にそびえる大楠。樹齢1200年と言われね幼き日の空海が植えたとも、登って遊んだとも伝えられる。
その後、奈良、室戸、福建、長安、博多、東寺、高野山…。司馬遼太郎の最高傑作の舞台を訪ね、その思索の跡を導きとして「人類普遍の天才」空海の現代における意味を考える(雅)
真言宗の入門としても |
50分2回のドキュメントを作るのに、ここまで調べてるとは流石にNHKだと感心しました。
空海の生涯、真言密教の正統後継者になった経緯、最澄との関係、それに現在も息づいている真言宗の教えについてハラハラドキドキしながら一気に読んでしまいました。巻末の参考文献の冊数にも圧倒されます。
圧巻は、真言密教の教えにまで深く立ち入って解説している事です。私は真言宗なのですが、ここまで深くは知りませんでした。
司馬遼太郎の「空海の風景」よりも数段読みやすいです。
司馬「空海の風景」理解に役立つ |
NHKスペシャルの取材記録。
私自身はこの番組を見逃してしまったのですが、
それでも本書は十分楽しめます。
なぜ司馬遼太郎は「空海の風景」を書いたのか、
そして作品の中で何を訴えたかったのか、
理解するのに大変役立った。
本書の最後に登場する、
東北のおばあちゃんの話
(弘法大師は東北へ行かなかったのに
自分の村に来たと信じている)
には、涙が出そうになりました。
また、弘法大師が唐へ上陸した場所では
弘法大師が熱心に信仰されていること、
そして弘法大師帰国後、中国では密教が
絶えてしまったことなど、勉強になりました。