集中講義!日本の現代思想―ポストモダンとは何だったのか
「右傾化」は起きていないのか? |
思想史家・比較文化研究者の仲正昌樹の本を幾つか読み、大変優れた論者だと思っていた。しかし、彼がイラクの人質擁護を批判し、次いで左翼批判に転じるようになってから、個人的にはどうもわからなくなっていく。
本書は、所謂ポスト・モダニズム、現代思想、ニュー・アカデミズムなどと呼ばれた流れに関する概説書。戦後日本での左翼思想に始まり、フランスなどでのポスト・モダン思想、その日本での受容と所謂ニューアカ現象、そうした流れが90年代に入って沈滞していったという著者の認識や現状への批判などが、いつも通り手際よく語られる。
仲正の概説の手腕は、常に見事だと思う。しかし、現状認識の部分にどうしても賛同できないのも著者の近著と同じだ。例えば、仲正はいう。日本では、西洋の思想や社会運動が断片的・表層的に輸入されてきたため、本質的理解が不充分だし、運動の方も根づかない。これはよく指摘されてきた点で、私も同感だ。
だが、その後の部分に納得がいかない。著者はいう。大きな物語は終わったというポスト・モダニズムの認識自体は未だに正しい。しかし、近年、再び左右対立が激化しつつある。これは、互いに鏡像的幻想を肥大化させているだけであり、下らない。特に左の方が、というものだ。
仲正の主張にはわかる部分もある。だが、「右傾化」はやはり起きているのではないか。近代的理想への過度の幻滅や反発から「汚い本音」「露悪趣味」(柄谷行人)が瀰漫している。これはやはり「危険」ではないのか。しかし、著者は保守派やネット文化に批判的なのに、他方、上記の点も認めたがらない。大変失礼ながら、やはり、仲正個人の複合観念がそこに介在しているのではないだろうか。